今後の建築業界のトレンドに!? 木造の中高層建築の現状や将来性をご紹介

2022年11月6日 更新

皆さんは「木造建築」というワードに対して、どのようなイメージを持っているでしょうか?

おそらく、木材は一軒家を建てるときや社寺建築の改修などに用いられ、中高層ビルには鉄筋やコンクリートが使用されるという認識が一般的でしょう。
しかし、近年欧米を中心に木造の高層ビルがトレンドになっているのをご存知でしょうか?

今回は、今後日本の建築業界のトレンドの1つになり得る、木造中高層建築について、社会的背景やメリット、実現に向けて動き出している実例などをご紹介します。

木造建築のこれまで

日本は国土面積の約66パーセントが森林で覆われている世界でも有数の森林国であり、森林資源の観点や、日本人も木を好む傾向からも、日本は木造建築と相性がいい国と言えます。

過去には、世界最古の木造建築である法隆寺をはじめ、日本全国の社寺仏閣に代表されるように、かつて日本は世界最高峰の高層木造建築の技術を誇っていました。

しかし、近代工業化以後現代まで、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建築の割合が増えてきており、高層ビルを建てる際には、これらの工法で建設されるのが一般的でした。

高層木造建築が注目を集め始めている理由

そのような中で今再び木材が注目され始め、高層木造建築は欧米を中心に建築のトレンドとなっています。

日本でも、建築専門誌や、テレビでも取り上げられるなど、徐々に注目され始めていますが、このように注目を集めて始めている背景には以下の2点が関係しています。

新しい木造技術CLTの普及

木造ビルを建てる場合に、1番の懸念点となるのが、コンクリートや鉄筋の建築物と比べての耐震性や耐火性でした。

こちらの課題を解決する新しい木造建築材として注目されているのが「CLT」です。

CLTとは板(ひき板)を貼り合わせた集成材で、木材を縦と横に交互に重ねることによって強度と耐久性を上げています。

ヨーロッパではすでに中高層建築物や大規模建築物などに採用されるなど、急速にCLTの生産量が増加しています。

欧米と比較すると、日本では知名度や普及率は低いものの、CLT自体に耐震性能があり、震度7の地震にも耐える実験や、火災に対しても長時間の耐火が証明されているなど、CLTは日本の建築業界を変える新素材として注目されています。

なぜ木材を中高層建築に利用することができるのか?

建築基準法では、特に防火地域などで、5階以上の建築に木材を用いる場合には、「2時間耐火構造」にする必要があります。
中高層ビルでは、上層階からの避難に時間を要するため、その時間を稼ぐためにこのような要件が定められています。その際、木材を用いた建材を実際に燃やし耐火性を検証する実験を行い、この結果をもとに2時間耐火構造かどうかを確認します。

CLTのように、木材の耐火性や強度が高まることで、以上のような要件をクリアすることが可能となったことが、木造中高層建築が普及してきている理由の一つと言えるでしょう。

法律の緩和による木材の活用の潮流

もう1つが日本の法律の緩和です。

2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立しました。
この法律は、木造率が低い、低層の公共建築物にターゲットを絞って、国が率先して木材利用に取り組むとともに、地方公共団体や民間事業者にも国の方針に即して主体的な取組を促し、木材全体の需要を拡大することをねらいとしています。

また2016年にCLTに関する建築基準法告示が施行されたことにより、今までは特殊な計算と厳格な審査を経ないと建物に使用することはできなかったCLTが、通常の建物と同じような計算と審査だけで使用可能となりました。

CLT工法を用いるメリット

では、CLT工法を用いることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは木造建築、そしてCLT工法のメリットをご紹介します。

森林資源の活用

1つ目にあげられるのが、日本の森林資源を有効活用できるという点です。

冒頭でもご紹介したように、日本は森林資源が豊富な国です。
森林の保全のためにも、木材を適度に伐採をする必要があるため、木材に対して一定の需要が求められます。

CLTは一般的に建材として不向きな木材でも活用することができるため、大量の木材を使用が期待できます。

それによって、国内の林業の活性化にもつながるため、国をあげて建築への木造利用を推進していきたいと考えられています。

工期の短縮

2つ目のメリットは工期の短縮です。

木材は鉄やコンクリートと比べると軽いという特徴があります。そのため施工がシンプルになり、工数や人件費を減らせるため、結果として躯体工事などの費用を削減できる可能性があります。

環境や気候変動に対抗できる

木造建築は環境に優しいというイメージがあるかもしれませんが、今回はイェール大学の環境科学者が発表したデータを元に環境へのメリットを紹介します。
(参考:WIRED「木造の高層ビル」が増えれば、気候変動にも対抗できる? 論文で示された木造建築の有用性

現在の主要な素材である鉄やコンクリートは、製造に使うエネルギーを多く使うことや、製造の際の化学反応時に大量のCO2が大気中に排出される一方で、木材は生木のときに光合成によりCO2を吸収します。

木材を収穫できる森林が持続可能な管理をされていること、木造の建築物を壊したあとは新築の住宅の床板などにリサイクルされること、などの前提条件はありますが、木造建築とそれ以外の工法を比較すると以下のような試算がされています。

コンクリートと鉄の建物をつくり続けると、建物に関連して排出されるCO2は2050年には年間6億トンにのぼると予想されている一方で、都市生活者向けに新たな木造建築を建てると、年間最大6億8,000万トンものCO2を吸収できるという発表がされています。

このように木造建築を取り入れることは環境保全の面からも、メリットが大きいと考えられています。

日本で計画されている木造超高層建築の事例

欧米諸国を中心に、世界的にトレンドになっている木造高層ビルですが、日本では実現に向け、どのような計画がされているのでしょうか。
ここでは現在計画されている、木造超高層建築の事例をいくつか紹介します。

国内最大・最高層の木造高層建築物(三井不動産、竹中工務店)

三井不動産と竹中工務店は、日本橋での賃貸オフィスビルを2025年竣工目指して計画中です。

こちらの建築物は木造ハイブリッド建築で、地上17階建、高さ約70mを計画しており、完成すると現存する木造高層建築物としては国内最大・最高層になります。

主要な構造材に竹中工務店が開発した耐火集成材の「燃エンウッド」が採用されており、同規模の一般的な鉄骨造オフィスビルとの比較で約20%のCO2削減効果が期待できます。

また、木材は三井不動産グループが北海道に保有する森林のものを積極的に活用するなど、木造建築のメリットを十分に活用した建築物であると言えるでしょう。

画像引用:三井不動産 ニュースリリース「三井不動産と竹中工務店、日本橋に国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル計画検討に着手
(https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2020/0929_02/)


地上70階の木造超高層建築の開発構想(住友林業)

住友林業は、2041年を目標に地上70階建、高さ350メートルの木造超高層ビルの実現を目指す研究技術開発構想「W350計画」を発表しています。

森のような建築物を目指すこちらの建築物は、木鋼ハイブリッド構造を検討していますが、木と鉄=9:1と木材の比率が9割を占めています。

現在は、超高層ビルを木造化するための技術的な課題を洗い出している段階ですが、現在の国内で最も高いビルが、約300メートルの「あべのハルカス」であることを考えると、実現すれば日本が木造高層建築において世界をリードする国になるかもしれません。

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画像引用:住友林業HP ニュースリリース
https://sfc.jp/information/news/2018/2018-02-08.html

木造高層建築の課題と今後

最後に木造高層建築が抱える課題と今後について紹介します。
今後日本でもトレンドとなる可能性がある木造高層建築ですが、実現に向けての課題も存在します。

CLTのコストが高い

1つ目にあげられるのが、CLTのコストが高い点です。
先ほどCLTを用いた木造建築は、基礎工事の費用を削減できることをメリットとしてお伝えしましたが、木材をCLT用に加工する加工費が高額になるため、現状ではCLTよりも鉄やコンクリートを使用した方が安くなります。
しかし、今後の生産技術の向上によりコストの低減は進んでいくと考えられます。

耐燃性や耐重性の向上

木造建築の規模が大きくなるほど、求められる耐火時間は長くなります。
また、台風や地震など大きな外力を受けても性能を確保できるかといった木の性能面に関しても、今後も更なる研究・開発が必要になるでしょう。

今後の展望

法律の改正や技術の発展、世界的なトレンドからも木造建築の高層化は今後も普及していくことが考えられます。

現在、CLTのメリットを最も活かせるのは中層建築物になり、上記で紹介したように木造高層建築を実現するうえで解決するべき課題も多く存在するため、CLT技術や、高層建築に関しては急速な普及は難しいかもしれません。

しかし、環境への配慮が現代社会のキーワードとなっている中で、宿泊客や利用者に木を使う意義をアピールし、木材利用を商品価値に繋げることができれば、今後も木造高層建築の需要は高まっていくでしょう。

まとめ

日本では木造高層建築を見かける機会は少なく、CLT技術なども一般的な認知度は低いですが、今後日本でもさらなる注目を集める可能性が高いと言えます。そのため、就活の際には自分が選考を受ける企業が、木造建築に関する取り組みをしているのかなど、関連性を調べておくと良いでしょう。

今回は木造高層建築について紹介しましたが、このような業界のトレンドを知識として理解することは、就活に役立つのはもちろん、将来のやりたいことが明確に決まっていない方が興味のある分野や、やりたいことが見つかるきっかけにもなります。

ぜひ就活の際に業界のトレンドなどの情報を積極的に集めていきましょう!

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