注文住宅の価格高騰の要因とは?今後の動向もご紹介!
ここ数年、注文住宅の価格は右肩上がりに高騰しており、以前と比べ、注文住宅の購入が難しくなっています。
特に新築住宅を手がけるハウスメーカーにとっては、顧客離れや需要減少、利益低下などの恐れがあり、対策として資材調達や施工方法、販売戦略の見直しが求められています。
本記事では、「注文住宅の価格がどのように推移しているのか」「価格高騰の要因とは何か」そして「今後の注文住宅業界はどうなっていくのか」などを紹介し、業界理解を深めていきます。
住宅業界を志望する方にとって、「経済や社会の変化が住宅価格にどのように影響しているのか」「各企業がどのような対策で市場拡大を狙うのか」を知ることは、企業研究や志望動機づくりにも役立つはずです。

注文住宅の価格推移:10年で約1.35倍に上昇
近年、注文住宅の価格は全国的に上昇傾向にあります。上記のグラフから読み取れるように、土地付注文住宅の平均価格は2013年度には3,637万円であったものの、2023年度には4,903万円となり、 約1.35倍へ上昇しています。
背景には、いくつかの要因があります。まず、木材や鉄鋼などの価格が世界的に高騰したことが大きく影響しています。また、建設現場で働く職人の高齢化と人手不足も深刻です。加えて、都市部を中心とした土地価格の上昇も避けられない問題です。特に利便性の高いエリアでは、土地取得費が住宅価格全体の大部分を占めるようになっています。
注文住宅は「自由設計で理想の住まいが建てられる」ことが大きな魅力ですが、こうした変化により、以前に比べて購入しづらくなりつつあるのが現状です。ハウスメーカー各社も、価格を抑えるための新工法や省人化技術の導入、資材調達の多角化など、さまざまな工夫を重ねています。
住宅業界を目指す就活生にとって、このような住宅市場の価格動向を理解することで、企業のビジネスモデルや今後の課題への理解を深める知識になります。また、住宅を提案する立場としても「住まいの価値とは何か」を考え直す新たな視点ともなるでしょう。

注文住宅価格が高騰する4つの要因
では、注文住宅の価格はなぜこれほど上昇しているのでしょうか?
こちらの背景には多くの経済的・社会的要因が挙げられますが、今回は特に影響が大きいとされる4つの要因をご説明します。

資材・住宅設備の価格上昇(ウッドショック・アイアンショックなど)
注文住宅は木造で作られることが一般的ですが、この建築に必要な木材や鉄鋼といった資材の価格が大幅に上昇しています。2021年以降、世界的な木材不足によって「ウッドショック」と呼ばれる事態が起こり、北米や東南アジアからの木材供給が制限され、国産材の価格も上昇しました。
同様に、鉄鉱石などの価格の高騰により「アイアンショック」も発生し、鉄骨などの部材コストも上昇しました。さらに、キッチンやユニットバスなどの住宅設備も原材料費やコンテナ不足やガソリン・電気料金の値上がりにより物流コストの増加により、多くのメーカーで値上げが行われており、住宅価格に大きな影響を与えています。
人件費の上昇と職人不足(高齢化・技能伝承の課題)
建設業界では深刻な人手不足が続いており、さらに熟練職人の高齢化が大きな問題となっています。若手の担い手が減少し、技能の継承も難しくなっている中、職人一人あたりの人件費が上昇しています。
加えて、働き方改革に伴う労働時間の短縮や待遇改善の流れもあり、全体的に労務コストが増加しています。その結果、建築現場にかかるコストが押し上げられ、住宅価格にも直接的な影響を与えています。

土地価格の高騰(都市部や人気エリア中心)
都市部を中心とし、2025年1月時点で土地価格は4年連続で上昇しており、住宅価格の中でも大きな割合を占める土地取得費の負担も大きくなっています 。
以上の添付画像から分かるように、都市部や人気エリアを中心に土地価格が上昇しており、これも注文住宅の価格上昇の大きな要因となっています。特に首都圏では、再開発や人口集中の影響を受けて、限られた土地に対する需要が高まっています。
土地付き注文住宅の総額が以前に比べて大幅に高くなっている背景には、こうした地価の上昇があります。
円安の影響(輸入資材コストの増加)
2022年以降から円安傾向が続いており、これが輸入資材の価格上昇に影響しています。日本の住宅業界では、木材や設備の一部を海外からの輸入に頼っているため、為替の変動によってコストが大きく左右されます。
円安が進むと、同じ製品でも日本円での購入価格が高くなるため、最終的に消費者に提供される住宅の価格にも影響を及ぼします。
これらの4つの要因はお互いに影響を受けており、「人手不足による工期の延長」は「資材コストの上昇と相まってさらにコストを押し上げる」など、一つひとつが連鎖的に住宅価格に影響を与えているのが現状です。

ハウスメーカーの対応策
注文住宅の価格が上昇している背景には、原材料費や人件費、土地価格、為替の変動といった外的要因がありますが、それらはハウスメーカーにも大きな影響を及ぼしています。
ここでは、ハウスメーカーへの影響と、各企業の対応策の例についてご紹介します。
ハウスメーカーへの影響
まず大きな影響として挙げられるのが、原価の上昇です。木材や鉄鋼、住宅設備などの価格が高騰したことを受け、2022年以降、多くのハウスメーカーが注文住宅の販売価格を引き上げざるを得ない状況となっています。
また、資材の納期遅延や物流コストの上昇により、住宅建設にかかる期間も長くなり、工期の遅れが発生し、施主が一時的に仮住まいを延長する必要が出るなど、引越し費用や生活設計への影響が広がっています。こうしたコスト増・工期長期化の問題は、住宅業界全体が直面している共通の課題です。
ハウスメーカー各社の対応策の例
資材調達の多角化
一つ目の対応策として、資材調達の多角化です。特に2021年に起きたウッドショック以降、特定の国や地域に依存した建材調達の体制のリスクが明らかになり、調達戦略の見直しが急速に進みました。
具体的には、北米産の木材に過度に依存するのではなく、国産のスギ・ヒノキ材や東南アジア産の木材を一部代替として活用する動きが広がっています。
各企業の資金調達方法の例として、グループ内に山林管理部門を持ち、「国産材の自社供給率を高める体制を整備」また、他の企業では海外林業資源と国産林業の両方に投資し、「木材価格変動のリスクヘッジを図る」などを行っています。
さらに、断熱材・外壁材・水回り設備などの調達先の多様化も進められています。従来は特定メーカーへの一括発注が主流でしたが、最近では複数メーカーからの調達や、海外と国内製品を用途によって使い分けるハイブリッド調達が増えています。
資材調達の多角化は単なるリスク回避だけでなく、地域経済との連携や持続可能性の確保を可能とする「SDGs対応」という観点でも注目されており、企業の社会的価値を高める重要な施策となっています。
新工法の導入によるコスト削減
注文住宅の建設コスト上昇に対応するために行われているのは、新工法の導入による施工の効率化とコスト削減です。特に近年は、工場生産と現場施工のハイブリッド型の建築手法が進化しており、その実用性が高まっています。
とある企業では、住宅全体の80%以上を自社工場であらかじめユニット化製造しておき、現場では組み立てるだけの「ユニット工法」を用い、現場では1日で棟上げが完了させることで、大幅な工期短縮と天候による工程遅延のリスク低減を実現しています。
工場生産により職人の技術的なばらつきが少なくなり、品質が安定しやすいというメリットもあります。
また他の企業では、大型パネル工法や2×4(ツーバイフォー)工法などの採用が増えており、構造用合板や断熱材を組み込んだ壁パネルを工場で事前に製作し、現場作業の手間を大幅に削減しながら、断熱性能や耐震性の強化にもつなげています
また、建て方作業(組み立て)に必要な職人の人数や熟練度も少なく済むため、職人不足に悩む中小ビルダーにも導入が進んでいます
モジュール住宅・3Dプリント住宅の試み
さらに先進的な事例として、モジュール住宅や3Dプリンターを用いた住宅建設など、テクノロジーを活用した取り組みも始まっています。
モジュール住宅では、ユニットバスやキッチン付きの部屋単位での製造が可能で、将来的には組み替えや増築にも対応できる柔軟性を持ちます。
海外ではすでに3Dプリント住宅が一部実用化されており、日本でも災害用住宅や小規模建築での導入が検討されています。
このように、新工法の導入は単なるコスト削減だけでなく、省人化・省エネ・環境配慮・品質の安定化といった多くの課題解決に貢献しています。
また、新しい建築工法やプレハブ工法の進化も、建設コストを抑える有効な手段として注目されています。工場での部材一括生産や現場での施工効率化によって、工期の短縮とコスト削減の両立を目指す企業が増えています。
若手職人の育成と技能継承
建設・住宅業界では、職人の高齢化と若手不足が深刻な問題となっています。平均年齢は60歳を超える職種も多く、技能継承が追いつかない中で、「いかに少人数で高品質な施工を持続させるか」が大きな課題となっています。
この状況に対応するため、業界では以下のような職人育成と省人化の両面での取り組みが進められています。
若手職人の省人化と技能継承のために、各企業では若手社員向けの技術研修施設「技能研修センターの設置」や建築系の高等専門学校と連携した「インターンや実地訓練プログラムを展開」し、高校・大学段階から建築現場への関心を高める仕組みの構築などを行っています。
人手不足時代の省人化を進める施工体制へ
建築設計・施工プロセスにBIM(ビム)と呼ばれる3D建築情報モデルを導入し、設計ミスの削減・材料の最適発注・施工順序の事前シミュレーションなどが可能となり、現場での手戻り作業を大幅に削減に取り組んでいます。
他にも、ロボットの導入などを行い、2~3人で行っていた作業を1人でもこなせるような取り組みや、重作業の負担軽減や作業時間の短縮に努める企業もあります。
加えて、現場では、AR(拡張現実)やMR(複合現実)ゴーグルを活用し、完成図や施工手順をリアルタイムで確認できる支援システムの導入が進められ、若手職人でもベテランと同等の判断ができるよう、視覚支援による施工ミスの削減に効果を上げています。
持続可能な働きやすい体制へのシフト
これらの取り組みは、単なる効率化ではなく、少子高齢化が進む日本において持続可能な住宅供給体制を築くための取り組みといえます。
たとえば、従来は熟練の男性職人中心だった建設現場も、以下のような取り組みにより、女性・未経験者・外国人労働者など多様な人材が活躍しやすい環境へと変わりつつあります。
建設業は「長時間労働・3K(きつい・汚い・危険)」というイメージが長らくありましたが、国交省主導の「建設キャリアアップシステム(CCUS)」や2024年の「建設業への時間外労働上限規制」適用を受けて、企業側も働き方改革を加速させています。
こうした変化は、単に「現場の省力化」ではなく、住宅業界が生産性と人材多様性の両立を目指し、持続可能な社会づくりに貢献していく姿勢でもあります。
将来住宅業界を志すうえで、「価格が上がっているから厳しい」だけでなく、その裏で企業がどう課題に向き合い、どのように乗り越えようとしているかを知ることは、自身のキャリアや志望動機を考えるうえで非常に重要です。
たとえば、「私は御社の女性技術者支援制度に共感し、多様性を活かした施工現場の実現に自分も関わりたいと考えています」 といったように、企業の取り組みに自身の価値観を重ねることが、説得力ある志望理由になります。

今後の注文住宅業界の動向
ここまで、注文住宅価格が高騰する要因やそれに対するハウスメーカーの対応についてお伝えしてきましたが、原材料価格や人件費は今後も高止まりするとの予測が多く、住宅価格の急激な低下は見込みにくい状況です。
一方、建築技術や設計の自由度、環境性能の向上によって「価格に見合った価値」が求められるようになります。最後に価格上昇を踏まえた注文住宅業界の今後の動向についてお伝えします。
また、動向を踏まえ就活時に意識するべきポイントについてもお伝えしているので、ぜひ就活の際の参考にもしてください。
資材価格の高止まりが続く背景とは?
現在、建築資材の価格は高いままの状態が続いています。これは、ロシアとウクライナの戦争の長期化や、世界中での物流の混乱(特にコンテナ不足)など、国際的な不安定さが原因です。
これまでは「ウッドショック」や「アイアンショック」といった一時的な問題として語られてきましたが、今はより根本的な“供給の不安定さ”が長引いているため、価格が簡単に下がる見込みはあまりありません。
そのため、今後も住宅の材料費は高い水準で推移し、住宅価格全体に大きな影響を与え続けると考えられています。
円安が続くと、住宅価格はさらに上がる可能性がある
今、日本はアメリカなどと比べて金利が低いため、円の価値が下がる「円安」が続いています。
住宅業界では、木材・キッチン・お風呂・電気設備などの多くを海外から輸入しているため、円安になると、それらの輸入コストが高くなります。
その結果、家を建てるための材料費が増え、 ハウスメーカーはその分を住宅価格に上乗せせざるを得なくなるのです。
つまり、円安が長く続くと、今後も住宅価格が上がる要因になると言えます。
企業研究では、「円安などの外的要因にどう対応しているのか?」を見ることが大切です。たとえば「国産材の活用を進めている」「設備の仕入れルートを多様化している」など、企業の工夫や強みと自分の関心を結びつけることで、説得力ある志望動機につながります。
建設現場の人件費はこれからも上がり続ける
政府は企業に対して賃金を上げるように求めていることに加えて、公共工事の増加などもあり、建設業界では人件費が今後も上昇していく見通しです。
また、職人の高齢化が進んでおり、若手の職人を育てるための教育やサポートにもコストがかかるようになってきました。
このような中で、単純に「人件費を削る」ことは難しくなっており、現場の作業を効率化しながら、職人の賃金もきちんと上げていくという、両立の工夫が企業には求められています。
志望動機では、「省人化技術や若手育成に取り組む企業」に注目し、「私も人材育成や働きやすい現場づくりに関わりたい」といった社会課題への関心と自分の想いを結びつけることが、より強いアピールになります。
土地の値段が上がり続け、家の価格に大きく影響している
最近、特に都市部や人気のエリアでは、土地の価格がどんどん上がっています。その結果、家を建てるために必要な土地費用の割合が非常に高くなってきました。
たとえば、首都圏やベッドタウンでは「そもそも土地がなかなか買えない」という声もあり、土地を確保すること自体が難しくなってきています。
このように、今後は「どんな家を建てるか」だけでなく、「どこに建てるか」が住宅価格を左右する大きな要素になります。
業界研究では、「限られた土地をどう活かすか」というテーマに注目すると良いでしょう。たとえば、狭小地に強い設計力や、土地探しを支援するサービスを提供する企業に注目し、「私も限られた土地でも豊かに暮らせる住まいを提案したい」といった志望動機につなげると、視点の深さをアピールできます。
省エネやスマート設備の普及で、家の設備費がさらに高くなる可能性も
今の社会では、環境にやさしい家づくりがどんどん求められています。たとえば、電気代を抑える省エネ住宅や、スマホで家電を操作できるスマート住宅(IoT住宅)のような住まいが広がってきました。
2025年からは、新築住宅に省エネ基準の達成が義務化されるため、太陽光パネルや高性能な断熱材、HEMS(家庭のエネルギー管理システム)などの先進設備が当たり前になっていきます。
ただし、これらの設備を導入すると、初期費用が高くなるという課題もあり、家の価格がさらに上がる可能性も指摘されています。
企業研究では、「省エネ×コストバランス」にどう向き合っているかを見るのがポイントです。「技術の導入だけでなく、コストと環境の両立を目指す住宅提案を行っている企業」に注目し、
「私も、暮らしの快適さと地球環境を両立できる住まいづくりに関わりたい」といったような価値観を重ねた志望動機につなげると、より説得力が生まれます。
これらの動向は、単なるコストの問題ではなく、住宅業界がこれからどのように持続可能性や効率化を実現するかという課題に深く結びついています。就職活動で業界に関心を示す際には、「変化への対応力」や「長期的な視点での価値提供」に目を向けて語ることが、他の就活生と差をつけるポイントになるでしょう。
まとめ
住宅業界において住宅価格の高騰は大きな問題であり、企業の業績に影響を及ぼしていきます。背景には、資材・人件費・土地価格・為替といった多くの要因が複雑に絡んでおり、それに対応するため、ハウスメーカー各社は資材調達や施工技術、働き方などのあらゆる面で変革を進めています。
住宅業界を目指す就活生にとって、このような住宅市場の価格動向を理解することで、企業のビジネスモデルや今後の課題への理解を深める知識になり、企業選びや志望動機の形成に活かせます。また、住宅を提案する立場としても「住まいの価値とは何か」を考え直す新たな視点ともなるでしょう。
企業によって得意な部材、住宅スタイルが異なるので、価格上昇の影響は企業によって様々であり、「それをどう乗り越えるか」にこそ、企業ごとの個性が出ます。
たとえば、「私は、御社が女性技術者の育成支援や多様な人材登用に積極的な点に魅力を感じました。建築現場に新しい風を吹き込みたいという想いから、持続可能な住宅建築に貢献したいと考えています。」
といったように、企業の取り組みに自分の価値観を重ねることが、説得力ある志望動機につながります。
直近の業績を調べるのも大切ですが、価格上昇が企業にどれぐらい影響があるのか、またその対策としてどのようなことを行っているのか、将来の業績にどのような影響を及ぼしそうかを自身で調べるようにしましょう!