海外で注目されるメガプロジェクトと日本人技術者の関与
この記事の目次
はじめに ─ 世界を舞台に活躍する建設技術者たち
国内の建設業界に限らず、いまやグローバルなプロジェクトに携わる日本人技術者の活躍の場が広がってきています。
巨大空港・都市鉄道・LNGプラント・大規模スタジアムといった非常に大規模な投資事業である“メガプロジェクト”において、日本のゼネコンや建設コンサルタントが活躍をしています。
この記事では、海外で進む注目のプロジェクト事例とともに、どのような日本企業がどんな技術・役割で関与しているのかをご紹介します。将来的にグローバルに活躍したいと考える学生の方はぜひ参考にしてください。

海外メガプロジェクト5選 ─ 各社1事例で読み解く「日本の技術力」
まず初めに、インフラとは、英語の「infrastructure」を略した言葉で、社会や経済、国民の生活を支える基盤となる施設や設備のことを指します。具体的には、道路・鉄道・空港・港湾・電気・ガス・水道・通信網・学校・病院などが含まれます。
ドバイメトロ建設プロジェクト(UAE|鹿島建設・大林組)
ドバイ初の都市鉄道「ドバイメトロ」は、全長約75km、総工費は約1兆1,000億円という中東最大級の都市インフラ整備事業で、日本からゼネコンの鹿島建設と大林組が関わっています。
こちらのプロジェクトの特徴は、ドバイで建設された”世界最長の無人運転鉄道システム”という点です。交通渋滞の慢性化に悩むドバイ都市圏において、地下区間を含む自動運転対応の都市鉄道システムは、経済活動の効率化を大きく後押ししています。
また、このプロジェクトは「レッドライン」と「グリーンライン」の2路線で構成され、ドバイ国際空港やビジネス地区を結ぶ重要なインフラです。
ドバイメトロ建設プロジェクトにおける鹿島建設と大林組の活躍の違い
ドバイメトロ建設プロジェクトでは、鹿島建設と大林組が共同で設計・施工を担当しましたが、それぞれの活躍の仕方には違いがあります。
共通する役割には「駅舎・トンネル・高架橋・車両基地などの建設」や「国際共同プロジェクトの推進(トルコのYapi Merkeziと協力)」「都市交通インフラの整備(総延長75kmの無人運転鉄道システム)」があります。
鹿島建設は、大規模な土木工事で150万立方メートルのコンクリート、30万トンの鉄筋を約2年で施工し、短期間で大規模な土木工事を遂行し、施工管理を強みとして活躍しました。
大林組は、プロジェクト進行中に発生した設計変更や追加工事への対応を行うほか、施工費用が当初の3倍に膨らむリスクを抱えながらコスト管理の面での役割で活躍しました・
鹿島建設は施工管理と技術力に強みを持ち、大林組は設計変更やコスト管理の面で重要な役割を果たしました。どちらも国際プロジェクトの経験を活かし、ドバイメトロの成功に貢献しました。
シドニー・オリンピックスタジアム建設プロジェクト(オーストラリア|大林組)
2000年に開催されたシドニーオリンピックでメインスタジアムとして使用された「スタジアム・オーストラリア(現Accor Stadium)」の建設には、日本の大手ゼネコンの大林組が参加しました。
このスタジアムは、最大で約11万人を収容できる世界最大級の競技場で、建設費は約1,000億円。オリンピックだけでなく、コンサートやサッカーなどにも使える多目的スタジアムとして、国際基準を満たすように最初から設計されました。
また、スタジアムだけでなく、周辺のまちづくりや交通インフラの整備も一体で進められたため、シドニーの都市全体の発展にも大きく貢献しました。
ゼネコンである大林組の関わり方と技術的な活躍
海外の国家プロジェクトで、一貫して任されたのは日本企業として異例であり、スタジアム全体を「つくるだけ」でなく、「考える」ところから携わりました。
屋根に太陽光を通す素材を使い、雨水の再利用システムを導入するなど、当時としては先進的な「サステナブル建築」を実現し、環境に配慮した最先端設計を行いました。
また、設計から施工まで一括で担当し、現地の建設会社と国際チームで協力しながらプロジェクトを成功させ、観客約11万人を収容する世界最大級のスタジアムを約2年半という短期間で高品質に仕上げた点も評価されています。

香港国際空港建設プロジェクト(香港|前田建設工業)
1998年に開港した香港国際空港は、埋立によって建設された世界有数の人工島空港で、総敷地面積は約1,225ヘクタール(東京ドーム約270個分の広さ)総工費は約2兆9,000億円超ととても大きなプロジェクトでした。
この空港は、世界中のモノや人が集まる国際物流とビジネスの中心地として、香港やアジア全体の経済を支えるとても重要な施設です。
前田建設工業の関わり方と技術的な活躍
こちらのプロジェクトに前田建設工業は、滑走路やターミナルビルを含む主要施設の施工に参加しました。
強風や潮風などの過酷な気象条件、海に囲まれた埋立地という特殊な立地、そして大規模な施工という多くの技術的課題を乗り越え、国際的な評価を得ました。
特に、「厳密な品質管理」を行い、「耐久性の高いコンクリート施工」を実現し、「安全管理体制」を徹底し、「事故ゼロを目指した現場運営」を行い、施工管理の実力が世界に認められました。
このように、前田建設工業は高難度の土木・建築施工技術と管理力を駆使し、世界トップクラスの空港建設に大きく貢献しました。
カタールLNGプラント建設プロジェクト(カタール|千代田化工建設)
中東のカタールにある「ラスラファン工業地帯」で作られた、世界最大級のLNG(液化天然ガス)プラントの建設プロジェクトで、総工費は約4兆1,700億円です。
このプロジェクトは、カタールが「エネルギー輸出国」として世界で存在感を高めるための重要なインフラ事業であり、経済の中心を支える国家戦略にも直結する、大規模で注目度の高い工事でした。
千代田化工建設の関わり方と技術的な活躍
千代田化工建設は、設計・資材調達・建設をまとめて担当する「設計から資材の調達、建設工事までを一括して請け負う契約」を行い、この巨大プロジェクトの中心として全体を動かし、技術力と管理力で世界に信頼される実績を残しました。
燃料コストの削減とCO2の排出量の低減を両立させた「省エネ設計」や「安全管理」を行うためのシステムを活用し、高度なプロジェクトマネジメント体制が評価され、日本のプラントエンジニアリング技術の高さを国際的に印象付けたプロジェクトとなりました。
カンプ・ノウスタジアム改修プロジェクト(スペイン|日建設計)
サッカーチーム、FCバルセロナの本拠地「カンプ・ノウスタジアム」が現在、2026年夏の完成を予定し全面改修工事を進めています。
このプロジェクトには、日本の建築設計会社である日建設計が設計パートナーとして参加し国際的にも注目されています。
改修後は、観客収容人数が10万5,000人へと拡大され、ヨーロッパ最大級のスタジアムとして再生される予定です。総工費は約約640億円にのぼり、伝統と先端技術を融合させた次世代型スタジアムとして生まれ変わらせる取り組みとして注目されています。
日建設計の関わり方と技術的な活躍
カンプ・ノウスタジアムの改修では、観客の快適さや見やすさ、環境への配慮、周囲の街との調和が重視され、日建設計は欧州の設計事務所と協力しながら、日本の合理的な構造設計と都市空間の提案を組み合わせる役割を担っています。
具体的には、「耐震設計や風の影響を考えた構造」「安全で動きやすい観客動線の設計」そして「3Dモデル(BIM)を使った効率的な設計管理」を行いました。また、太陽光発電や自然光活用など環境に優しい設備設計も進めています。
このように、日建設計は技術力とデザイン力を活かして、伝統を守りつつ快適で先進的なスタジアムづくりを支えています。

海外のメガプロジェクトを知ることで、 ”志望動機につながる言語化”ができる
海外のメガプロジェクトには、国内では経験しにくいスケール感や技術的チャレンジだけでなく、都市や地域全体に長期的なインパクトを与える社会的意義が含まれています。
たとえば、交通インフラの整備によって生活圏が拡大し、周辺地域の経済が活性化する効果が生まれるなど、そうした「社会を動かす力」がメガプロジェクトにはあります。
また、建設に伴う先進的な取り組みにも注目です。「環境負荷を抑える設計思想」「多国籍チームでの協」「地域人材の活用」など、建設が社会課題解決に直結するという実感を得ることができます。
こうした事例に触れることで、「自分はどのような課題に関心を持つのか」「どのようなプロジェクトに魅力を感じるのか」を掘り下げるきっかけになります。そして、その思考を言語化できるようになると、志望動機や自己PRに説得力が生まれます。
注意したいのは、「海外案件がかっこいいから働きたい」といった短絡的な結論に至らないことです。プロジェクトを通して見えてくるのは、自分が大切にしたい価値観や社会貢献のかたちです。それを丁寧に整理しておくことで、国内外問わず多様なキャリアに応用できる軸が形成されていきます。」
事例を知ることのメリット
活躍をしている日本企業が、どんな技術・役割で関与しているのかという点に注目をしながら事例を見ることで、日本が得意とする技術を知ることができ、その技術は海外需要を伸ばすために今後発展する分野である可能性があるということが分かります。
また、その企業が得意とする分野を知ることで、今後も似たような案件や分野の受注が増える可能性があると捉えることができ、企業分析だけでなく、自分の就活の軸と合っているかの確認をすることに繋がります。
海外でメガプロジェクトに関わりたい人が知るべきこと
海外のメガプロジェクトに携わり、活躍をするためにはまず「どのようなキャリアを築くことで働けるのか」を知っておくことが大切です。
どんな建築物をつくり上げるのにも、多くの人手や知識、技術が必要不可欠です。海外のメガプロジェクトとなれば関わる分野も多岐にわたります。そして専門性も高く、工事規模・施工費用・責任も大きくなります。
そして、どのような分野で携わりたいのかによって、必要なスキルや経験が変わってきます。まずは、スキルを習得することや経験を積むために、どのようなキャリアを歩み、働きたいのかをしっかりとプランニングし、就活の際に言語化できるようにしましょう。
そして、なぜ日本ではなく海外なのか、なぜその企業なのかを説明できるように整理することで、自分が大切にしたい価値観も知ることができます。
まとめ
本記事で紹介したように、日本の建設業界は海外においても確かなプレゼンスを発揮しており、その現場には多くの日本人技術者が関与しています。
こうした事例を知ることは、業界全体を俯瞰する視点を養うと同時に、「自分が惹かれる建設プロジェクトとは何か」という問いに向き合う契機にもなります。
将来の進路選択や志望動機の言語化において、今日の国際的な建設動向を捉えることは、大きな意味を持つのでぜひ気になっている業界や企業の海外での事例や実績をご自身で調べるようにしましょう。