WELL認証とは? 「人にやさしい建物」を評価する国際基準を解説!
近年、建築業界では「環境にやさしい建物」だけでなく、「人にもやさしい建物」づくりも重視されるようになっています。そんな中、注目されているのが「WELL認証」です。
WELL認証は、従来のように建物のエネルギー効率や環境性能を中心に評価するのではなく、「建物で過ごす人の健康や快適性」に焦点を当てた国際的な基準です。
空気や水の質、光、音、快適さ、心の健康など、建物が人に与える影響を総合的に評価し、「人にやさしい建物」の実現を目指します。
本記事では、このWELL認証の概要や特徴、他制度との違いについて紹介していきます!

この記事の目次
WELL認証とは?
WELL認証は、人々の健康や幸福(ウェルビーイング)に焦点を当てた建物・街区の評価制度です。建物の環境が人の心身に与える影響を、科学的な根拠に基づいて評価します。
WELLは、「人が快適に過ごせる建物づくりの知恵」と、「医学や科学の研究で証明された知識」を組み合わせてつくられた評価システムです。
2014年に最初のバージョン(v1)が発表され、2020年には最新版のWELL v2が登場しました。現在は、より柔軟に多様な建物・施設・街区の評価に活用されています。
WELL v2では、次の10のコンセプトを軸に建物の健康性を評価します:
空気・水・栄養・光・運動・温熱快適性・音・素材・心・コミュニティ
建物が一定の基準を満たすと、達成度に応じてSilver/Gold/Platinumなどの認証レベルが付与されます。

出典:WELLとは | Green Building Japan
WELL認証では、評価基準のことを「Feature(フィーチャー)」と呼びます。
それぞれのFeatureの中には、さらに「Part(パート)」と呼ばれる細かい項目があり、建物が満たすべき具体的な基準が定められています。
まず、すべての建物は必ず満たさなければならない「Preconditions(必須項目)」をクリアする必要があります。
そのうえで、加点対象となる「Optimizations(追加項目)」をどれだけ達成できるかによって得点が決まり、最終的に「Silver/Gold/Platinum」といった認証ランクが与えられます。
評価カテゴリー(コンセプト)
代表的な10の評価分野を簡単に紹介していきます!
Air(空気):清浄で快適な空気環境を保つ
Water(水):安全でおいしい飲料水の確保
Nourishment(栄養):健康的な食習慣を促す環境づくり
Movement(運動):自然に身体を動かしたくなる空間設計
Light(光):目にやさしく、生体リズムを整える照明環境
Sound(音):集中やリラックスを妨げない音環境の実現
Thermal Comfort(温熱快適性):温度や湿度を最適に保つ快適空間
Materials(素材):人体や環境に配慮した安全な素材の使用
Mind(心の健康):ストレス軽減やメンタル面の健康を支える設計
Community(コミュニティ):人とのつながりや安全性を高める取り組み
これら10の分野を総合的に評価することで、WELL認証は建物と人との関係性を科学的に可視化し、より「人にやさしい建築」を実現します。

出典:WELLとは | Green Building Japan
評価レベル
WELL認証(v2)には、4つの認証レベルがあります。
これは、WELLプロジェクト(建物全体を対象)と、WELL Coreプロジェクト(共用部分を中心に評価)どちらも共通です。
認証レベルの仕組み
・Bronze(ブロンズ)
・Silver(シルバー)
・Gold(ゴールド)
・Platinum(プラチナ)
WELLでは、建物の「健康・快適性」を10の分野(コンセプト)ごとに評価し、得点によって認証レベル(Bronze/Silver/Gold/Platinum)が決まります。
特にWELLプロジェクトでは、各分野で得点取得が必須となっています。
つまり、特定分野だけでなく、全体的にバランスよく「人にやさしい建物」を実現することが重視されます。

WELL認証のメリット
企業・建物にとってのメリット
WELL認証は、企業が「人を大切にする働く環境づくり」を進めている証として注目されています。
そのため、健康経営やESG(環境・社会・ガバナンス)経営の一環として取り入れる企業も増えています。
オフィスの空気や明るさ、温度などが整えられることで、社員が快適に働けるようになり、仕事の効率アップや満足度の向上につながります。
また、「人にやさしい建物」として信頼性が高まるため、企業ブランドの向上や採用活動でのアピールポイントにもなります。
働く人にとってのメリット
WELL認証を取得したオフィスは、照明・空気・音・温度などがしっかり管理された快適な空間をもつ職場環境です。
自然光を取り入れた明るい空間や、きれいな空気環境、静かで集中しやすい設計など、体と心の健康をサポートする工夫がされています。
こうした環境は、ストレスを減らし、集中力やモチベーションを高める効果が期待できるため、働く人にとっても「ここで働きたい」と感じられる場所になります。

日本での導入事例
WELL認証は海外だけでなく、日本でも導入が進んでいる国際的な評価制度です。
たとえば、虎ノ門ヒルズをはじめ、三井不動産や森ビルなどの大手デベロッパーがオフィスプロジェクトでWELL認証を取得しています。
こうした取り組みは、企業にとって「健康的で快適な職場づくり」に取り組む姿勢を示すステータスとなっています。
近年では、日本企業でも「健康経営」や「働き方改革」の流れとあわせて、WELL認証の導入が広がっています。
森ビル/麻布台ヒルズ 森JPタワー・虎ノ門ヒルズ ステーションタワー
森ビル株式会社が運営する
・麻布台ヒルズ 森JPタワー
・虎ノ門ヒルズ ステーションタワー
・JAKARTA MORI TOWER(インドネシア)
の3施設が、オフィスおよび商業区画の共用部を対象とした「WELL Core」プラチナ本認証を取得しました。このうち、
・麻布台ヒルズ 森JPタワー
・虎ノ門ヒルズ ステーションタワー
は日本で初めての「WELL Core プラチナ本認証」取得、また JAKARTA MORI TOWER はインドネシアで初の認証事例となります。
さらに、環境性能を評価する国際認証「LEED」では、街区全体を対象としたND(Neighborhood Development)カテゴリーでプラチナ予備認証を取得しました。
また、日本の建築環境評価制度である「CASBEE」においても最高ランク「S」を獲得し、
特に麻布台ヒルズでは「CASBEE-ウェルネスオフィス」でも最高評価を受けています。
これらの成果から、森ビルが目指す「環境性能」と「人への配慮」を両立したまちづくりの姿勢が明確に表れています。
日本設計 本社オフィス(東京都)
設計事務所である日本設計は、自らの本社オフィスにおいて「働く環境の質をデザインする」という理念を具現化しています。
オフィス内では自然光の取り入れ、高精度な照明・温熱・音環境制御、自動ブラインドといった設備を導入し、ストレスを感じにくい快適な空間を実現しています。
さらに、自由な働き方を支える可変性の高いワークゾーンや休憩ラウンジを整備しており、これらの取り組みが評価され、「WELL 認証」(GOLD)を取得しました。
加えて、環境性能を裏付ける「LEED 認証」(GOLD)も併せて取得し、いわば“設計×健康経営”を両立させた先進オフィスの事例です。

環境建築認証である「LEED」「CASBEE」との違い
それぞれの認証制度には、評価の「視点」に違いがあります。
LEEDは「地球環境へのやさしさ」、CASBEEは「日本の暮らしとの調和」、そしてWELLは「人の健康と快適さ」に焦点を当てています。
近年は、建物の省エネ性能だけでなく、働く人・暮らす人の幸福や健康までを考えた建築が重視されるようになっており、WELL認証のような“人中心”の考え方が注目されています。
こうした違いを理解しておくと、企業研究や志望動機で「自分がどんな建築をつくりたいのか」をより具体的に語れるようになるので、幅広く調べておきましょう!
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これからの建築業界におけるWELLの将来性
WELL認証の広がりは、単なる省エネやデザインの評価にとどまらず、
「建築=人の健康・幸福をデザインする」という新しい価値観を象徴しています。
たとえばオフィスでは、自然光・空調・音環境などを整えることで、従業員の集中力や生産性を高めることができます。また商業施設では、快適で安全な空間づくりがブランド価値の向上や集客力アップにつながります。
このように、WELL認証は設計・デザインの領域を超えて、不動産開発や企業ブランディングにも影響を与えており、企業にとっても、WELL認証の取得は「健康経営」「ESG経営」を推進する取り組みとして注目されています。
就活生にとっては、こうした「人に寄り添う空間づくり」に興味を持つことが、建築・デザイン・不動産・コンサルティングなど幅広い業界での志望動機や自己PRに活かせます。
あなたの関心分野に合わせて、次のような視点を意識するとより明確になるでしょう。
・設計志望の学生:光・音・温熱環境などの「快適性」をどうデザインに反映するかを学べる
・不動産・開発志望の学生:WELL認証が物件価値や入居者満足にどう影響するかを理解できる
・企業ブランディング志望の学生:健康で快適な空間が企業のイメージ向上につながる仕組みを知る
こうして、WELL認証は単なる建築技術の知識にとどまらず、人・社会・企業をつなぐ新しい建築の価値観を学ぶ絶好の機会となります。
まとめ
WELL認証は、「人を中心にした建物づくり」という新しい価値観を体現する評価制度です。
これまでのように“環境にやさしい建物”を目指すだけでなく、働く人・暮らす人が健やかに過ごせる空間をどう実現するか” のような視点が、これからの建築・都市づくりの鍵となっています。
就活においても、SDGs・ESG・健康経営といったテーマとの親和性が高く、「人に寄り添う空間をつくりたい」という想いを語るうえで非常に強いトピックです。
興味を持った方は、ぜひIWBI(WELL公式サイト)や日本のWELL導入事例をチェックしてみてください!