建設工事のコストが高騰している?要因と社会への影響、今後の見通しを解説します

2024年3月10日 更新

近年、建設業界の問題の1つとして挙げられているのが、建築工事コストの高騰です。日本においては、都市開発やインフラ整備、戸建て住宅の建築など、様々な建設工事が行われています。日本の産業としてもとても大きい業界のためこの工事コストの高騰は社会に対して大きな影響を持つと言われています。

では、建築工事コストの高騰はどのような原因によって起こっているのでしょうか?
また、就活を行ううえで、この問題はどのように関わってくるのでしょうか?

今回は建築工事のコストが高騰している原因を様々な点から解説し、建設業界にもたらす影響、そして就活時に気をつける点についてもご紹介します。

建設業界の現状

建築工事コストが高騰している理由を紹介する前に、まずは建設業界の現状についてご紹介します。

建設業界や建設プロジェクトにおける投資額の総額である、建設投資額を見てみると2010年度以降上昇が続いており、2022年度時点で67兆円に上ります。全体の投資額は増加傾向であり、特に民間の建設投資額においては、東京オリンピックが終了した後の2022年度も建設需要は底堅く上がり続けています。

引用元:一般社団法人 日本建設業連合会(https://www.nikkenren.com)

建築工事コストはどれくらい上昇しているか

ここからは、今回のテーマである建築工事コストについて、まずは建築工事コストがどれぐらい上昇しているのかを具体的な数値を用いてご紹介します。

建築コストの内訳は、労務コストと資材コストに大きく分けられ、それぞれのコストが異なる要因によって上昇しています。

労務コスト

労務コストとは、人件費や社会保険料など、労働力の消費にかかるコストで、資材コストは、建築に必要な材料や設備、機器などの購入にかかる費用です。

労務コストについては、2021年1月と比較して2023年2月では建設技能者の賃金相当として積算される公共工事設計労務単価が約10%上昇しています。

具体的な数値としては、それぞれの労働単価として
溶接工は7.3%
塗装工は10,6%
配管工は12.2%
ダクト工は16.1%
といったように、各職種における単価は、全国全職種平均で9.1%上昇しています。

これは労務コストの割合を全体の建築コストの30%とすると、労務コスト上昇の影響により全建設コストは、3%上昇していることになります。

資材コスト

続いて資材コストですが、資材コストに関しては、土木部門では資材価格が25%、建築部門では29%、建設全体では28%上昇しています。

具体的な資材の価格では、
板ガラスが20%
生コンクリートが26%
軽油が35%
鋼矢板が42%
ステンレス鋼板が84%
上昇しており、急激に資材コストの値段が上がっているのが分かると思います。

これは、材料費割合を50〜60%と仮定すると、資材等高騰の影響により全建設コストは、14〜17%上昇していることになります。

これらように、建設資材、労務費の上昇の影響により、仮設費・経費などを含めた全建設コストは、約2年間で17〜20%上昇しているため、建設業界において建築工事コストの上昇が大きな問題となっています。

建築工事コストが高騰している原因

ここからは建築工事コストが高騰している原因についてご紹介します。

この後にもご紹介するように、建築工事コストの高騰は様々な要因によって起こっています。
そのため、今回は労務コストと資材コストの2つに分けて上昇の要因をご紹介します。

労務コスト上昇の要因

一番大きな要因は人手不足

労務コストが上昇している要因の1つが、長年に渡る建設業界の人手不足です。

若い人たちが建設業界に進むことが少なくなっているため、建設業界の高齢化が進み、職人の需要が高くなっているため人件費が高騰しています。

その他にも労働力が足りないと工期の延長にも繋がり、こちらも同じく工事コストの上昇に繋がります。

働き方改革の推進

建築業界で進んでいる働き方改革の推進も建築工事コストを上昇させている要因の1つです。

元々建設業は、他の業界と比較すると労働時間や休日労働が多い業種であり、そのようなイメージも若い人材の建築業界離れを加速させていました。

これらのマイナスイメージから脱却、および日本全体で働き方改革などの影響もあり、建設業界でも労働環境やワークライフバランスの整備が進められています。

現収入水準を維持したうえで、労働時間を減らすことは、労務費の増加に繋がります。
また、労働時間の制限や週休2日制による現場閉所数の増加は、工事期間の長期化を引き起こし、工期が延びることは、仮設費等の増加にも繋がるため、これらも労務費の増加の一因となっています。

法定福利費の適正化

法定福利費とは、建設会社が従業員のために負担する保険料のことです。

本来、法定福利費は企業ごとに加入の有無を判断することや、金額を変更することはできません。

しかし、以前は適正に費用を計上していない企業や従業員を保険に加入させていない企業なども存在していました。

これらの状況を変えるために、2017年には請負代金内訳書に法定福利費を明示することがガイドラインで示され、元請企業はその内容を尊重することが定められました。
また、適切な保険に加入していない作業員については、現場入場を認めない取り扱いを求める等、対策の履行強化が図られています。

その結果、10年前と比較して社会保険加入率は大きく上昇し、業界全体で不適格業者の排除や、技能労働者の雇用環境改善の取り組みが行われていますが、結果としてこれらの改革が労務費を上昇させることに繋がっています。

資材コスト上昇の要因

建設需要の高まり

資材コストが上昇している1つ目の要因が世界規模での建設需要の高まりです。

現在アジアの建設市場は全世界の42%を占めるほど大きくなっています。
中国ではこの20年間で建設市場規模が13倍に膨らんでおり、インドやインドネシアでは大規模な開発等が予定されているため、今後も市場が拡大すると見込まれます。

このように世界規模で建設需要が高まっているため、相対的に資材コストも上昇しています。

新型コロナウイルス

続いての要因は2020年からの新型コロナウイルスの影響です。
新型コロナウイルスは建築業界だけでなく、世界全体に大きな影響を与えましたが、建築コストの上昇と関連があるのは、新型コロナウイルスが起因となったウッドショックです。

ウッドショックとは新型コロナウイルスの影響によって、アメリカや中国、欧州といった経済大国で、郊外に住宅を建てて移転する人が増えたことや住宅取得意欲が高まったことにより世界的に木材の価格が高騰した現象です。

また、世界的なコンテナ不足による輸送コストの上昇も、木材価格の上昇に影響を与えています。

ウクライナ問題

近年の問題としてあげられるのは2022年からのウクライナ問題です。
ロシアとウクライナでの紛争によって、その2国の経済活動の停滞・遅延によって、建築資材の高騰に繋がっています。

ロシアは世界最大規模のエネルギー資源の生産国であるため、天然ガスや石油等のエネルギー資源の価格が高騰します。それにより世界規模での運輸送のコストが上がります。

また、ウクライナは鉄鋼や木材を世界に輸出しており、日本もそれらの資材を輸入しています。そのため日本の建設資材の供給が追いつかず、調達コストが上がるため、工事コストの増加に繋がっています。

実際には、あらゆる産業のサプライチェーンに2次的・3次的な影響を及ぼしながら現状に至っているため、直接的な影響だけが原因ではありませんが、
ロシアとウクライナの不安定な情勢によって、木材や金属資源などの建設資材の供給が不安定になり、資材価格の上昇を引き起こしています。

円安の影響

最後の要因が円安です。

日本は建材資材の多くを輸入に頼っているため、円安が加速すると相対的に資材コストは上昇します。

また、ガソリン代や電気料金の高騰も資材を運搬するため、運送費や資材や設備を加工する工場の電気代の上昇に繋がっています。

建築工事コストの上昇がもたらす影響

ここまで建築工事コスト上昇の要因を、労務コストと資材コストの2つの点からご紹介しましたが、建築工事コストの上昇は建設業界にどのような影響を与えているのでしょうか。

まず考えられるのがゼネコンおよび開発事業者(デベロッパー・ハウスメーカー)の利益率の低下です。
建築工事コストが上がった場合ゼネコンなどの建設工事に携わる企業は、まず利益削り建築工事コストが上がらないように努めます。
このような場合は企業同士の価格競争が激しくなり、業界全体の収益が低下する危険性があります。

しかし、前章でご紹介したように、近年建築工事コストは今までになかったような価格高騰が起こっており、ゼネコンとしては今までの金額で工事を行うと原価割れを起こすほどになっています。

特に数年前から続く長期事業では、工事を始める前に、工事金を施主と確定させるため、工事開始時点で約束した工事金予算では、現在の工事費高騰を賄いきれないことがあります。そうなると建設事業者としては利益率の低下につながる可能性もあります。

一方で、開発事業者の視点では、マンションやビルを建設しようとした場合、どのゼネコンに工事を依頼をしようとしても、高い工事金になってしまうため、建築コストの上昇分を賄うために、商品である建物などの売値を上げることになります。
しかし、商品の売値を上げ過ぎてしまうと、買い手が誰もいない状況になり赤字となってしまいます。

また、消費者(マンション購入者など)の観点では、適正価格以上の値段で販売されている建物への購入意欲は下落するので、不動産業界全体の売上の落ち込みにつながる可能性があり、このようなサイクルが繰り返されると日本の経済全体が冷え込む可能性があります。

工事コストが上がった分の負担を建物の発注者、建設業者、消費者がそれぞれに負担が分散することが必要と言えるでしょう。

建築工事コストの上昇を就活にどう活かすか

ここまで建築工事コストの上昇の要因を長期的、短期的の2つの視点でお伝えしましたが、最後に建築工事コストの今後や、これから就活を行う学生の方がこの問題を就活にどう生かしていくかについてご紹介します。

今後も建築工事コストは上がり続ける?

まずは、現在建設業界の課題となっている建築工事コストの上昇が今後も続くのかという点です。

こちらについては確実に結論を出すことはできませんが、今後も建築コストは上がる、もしくは高止まりすると考えてよいでしょう。

理由としては、今回ご紹介したように、建築コスト上昇には人手不足という建設業界が長年抱えている問題があり、これはここ数年で解決ができる問題ではないからです。

また、働き方改革や労働環境の整備が建築コストの上昇の要因となっている部分もあり、コストが上昇することは建設業界全体で考えたときに必ずしもマイナスなことであるとは言い切れません。

しかし、近年建築コストが急激に上がったのは、今回ご紹介した短期的な要因の部分の影響が大きく、新型コロナウイルスの影響やウクライナ問題が解決に向かうことや、技術革新や効率的な建設プロセスの導入など、コスト削減につながる取り組みも進んでいるため、急激な上昇は収まると考えられます。

就活の際にどう活かすか

最後に、建築工事コストが上昇している問題を就活にどう活かすかという点をお伝えします。

学生の方が、就活の際に意識する際に重要になるのが企業の調べ方です。

現在、建設業界は概ね好調のため、建設会社の売上高が増加していても、建設コストの増加により各社の利益率は減少している可能性があります。

そのため、企業研究を行う際には売り上げだけを調べるのではなく、利益率にも注目をするようにしましょう。

また、建築コストの上昇に伴い、より高品質の建物やより環境に優しい建物を提供することが求められるようになっています。
企業が価値のある技術や強みを持っているかを調べるようにしましょう。

まとめ

今回は近年の建設業界のトレンドの1つである、建築工事コストの上昇について、なぜコストが上昇しているのかという理由を中心にお伝えしました。

今回は建設業界全体の視点でご紹介しましたが、ゼネコンやハウスメーカー、デベロッパーなど業界ごとや、企業の事業領域によって影響を受ける範囲や度合いは変わってきます。

そのため、まだ選考を受ける企業が見つかっていない学生や、就活を本格的に始めていない学生の方は、今回の建築工事コストの上昇のように日頃から建設業界に関するトレンドやニュースをキャッチアップするようにしましょう。

また、就活を本格的に始めていて、選考を受ける企業が決まっている学生は、もう一歩踏み込み、建設業界のトレンドやニュースが企業にとってどのような影響を与えるのかといった視点を持ちながら就活を進めるようにしましょう。

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